第10章 見つめるその先
(Mr.マルフォイは私を気に入ったって言ってたけど…それはおばあちゃんの孫だから)
キラはあのルシウス・マルフォイの冷たく青い瞳を思い出す。
魔法界の者であればほとんどが知っていると言うブルーム家に価値があるのは分かる。
しかし、縁者らしき縁もない自分に何故彼が近づいてくるのか。
純血主義を掲げているはずの彼がマグルと変わりないキラの手に唇を落とすほどに、かの家は価値があるのか。
祖母にブルームの家のことを聞きたいと思ったが、なんと聞けばいいのかわからない。
今考えれば不自然な気がしてならない。
どうして祖母は、一度も実家に自分を連れて行かなかったのか。
生活と英語に慣れるのに必死でそれどころではなかったかもしれないけれど、これだけ周りから言われるのだ。
ある程度のことを教えてくれてもよいのではないか。
それに、実家の近くまで戻ってきたら、普通は挨拶くらいしないだろうか。
たとえ両親がすでに他界していたとしても、墓参りをしたり兄弟に会ったりするものではないのか。
あえて、遠ざけられているとしたら。
(何か、隠してるの…?)
キングズクロス駅で最後に見た祖母の笑顔が、酷く色褪せた記憶になりつつあった。
(Mr.マルフォイに会いたい)
彼はいつ招待状を送ってくれるのだろうか。
『向上心のない者は嫌いだ』
彼はそう言っていた。
こちらの世界を知っておけ、ということに違いない。
(…私は、なんにも知らない……)
キラは本の貸し出し手続きを行い、寮へ戻ることにした。
本を無意識の内にぎゅっと胸に抱いて談話室へ入ると、アニーと彼女の兄、グラエムが暖炉前のカウチに腰掛けていた。
「ハイ、キラ」
こちらに気づいたグラエムがにこりと笑いかけてくる。
「こんにちは、グラエム」
「キラ、スラグクラブのパーティーに呼ばれたんだって?」
「え、ええ…人数合わせですけど」
「そうなの?」
「たぶん…正式に入る、みたいな話はなかったので」
「んん、どうかな。またその内招待状が来ると思うけどね」
その言葉にキラは苦笑いするしかなかった。
またあんなことになったら困る。