第2章 寝耳に水
二年生の夏、私は何をするでもなく、ただただ本を読み漁っていた。平日は毎日図書室に通い、土日のために4、5冊は借りていく。
入り浸っている、というのがぴったりな気がする。山ほどの本に入って、浸って、ずぶずぶと潜水していくのだ。
でも昨日は突然引き上げられてしまった。あの先輩…そうだ、どこかで見たことがあるんだ。一体どこで…
「結衣!」
ぷつりと思考が途切れる、
「もう、こーちゃん・・・もう少しで思い出せそうだったのに」
クラスメイトのこーちゃん。本当はごうだけど、本人の希望でこーちゃんと呼んでいる。
「それより、移動教室!もう時間ないし早くいこうよ!」
「え・・・あっそっか、次物理だっけ」
「もう!結衣はいっつもそういうとこ抜けてるよねえ」
こーちゃんはしっかり者だなあ・・・と考えながら、わたわたと教科書やらノートやらを出して抱きかかえる。
「用意できた?」
「うん、行こ」
ぱたぱたと早歩きで廊下を通り抜け、特別棟へと向かう。
「ねえ、何考えてたの?」
「ああ・・ちょっとね。こーちゃんはさ、背の高い、青色のリュックの3年生ってわかる?」
「背の高い青色のリュックの3年生ー?そんなのいっぱいいるわよ?」
「だよねえ・・なんか優しそうなお節介焼きみたいな・・」
「んんん・・・身近な人で言えばうちの水泳部の部長かなー」
「水泳部の部長・・・?」
「ほら、前に夏合宿の時の写真見せたでしょ?覚えてない?」
「あ・・・ああ!!!その人だ!凄いよこーちゃんどんぴしゃ!!」
「へ・・?」
「名前!あの人名前なんていうの?」
「え・・と、橘真琴だけど・・どしたの?結衣にしてはテンション高いね」
「えっ・・あははーちょっとね、ちょっとちょっと、ね」
「こんの・・・白状しなさーい!」
「やだ!やめてよこーちゃんくすぐったい!あはははは!!」
ジジ・・・キーンコーンカーンコーン・・・
「やっばい遅刻になっちゃう!走るよ結衣!!」
「ふぇ?あっ・・まってよこーちゃん!!」
バタバタバタ・・・
二人分の足音が、廊下の奥へ遠ざかっていった。