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水中の眠り姫

第3章 水を乞いて酒を得る


6時、夕日がゆっくりと海へ落ちていた。
あわよくば、と思っていたのに本当に一緒に帰れるとは思ってもいなかった。
人間とは強欲な生き物である。とはよく言ったもので、まさにその通りだと思う。
当初の目的『一緒に帰る』は達成されたのに、先輩のことをもっと知りたいと思ってしまった。
「先輩は」
「ん?」
「先輩は、夏合宿で何かがありました!」
「ええ?何もないよ?」
「いーえ!ありました!これは確信です。靴箱で上履きを落としたのは定番すぎますよ、ありがちなシュチュエーションです!」
「うーん、参ったなあ・・ホントに何もないんだけど」
「本当に何もない人は、思い出話ぐらいして終わりですよ?何もないの1点張りは何かあるってことです!」
半歩前を歩いていた先輩が、急に立ち止まってゆっくりと振り返った。
「・・・そんなこと聞いて、何になるの?」
感情の乗らない淡々とした声だった。初めて、先輩のことを怖いと思った。夕日の逆光でよく見えない顔が余計に恐ろしさを煽る。
「・・・ごめんなさい」
「ん、わかったならよかった」
ぽんぽん、と頭を軽く叩かれる。
怒らせたのに、優しくされては少し泣きそうになってしまう。ぐっと堪えるために、俯いて眉間を抑える。
すると、先輩は背中を曲げて私の顔を覗き込んできた。
私を心配しているような、そんな表情で、子供みたいにずけずけと聞いた自分が、優しい先輩に甘えた自分が許せなくなって自然と涙が流れる。
「え・・・ああっ!ごめん、怖かったよね?ほんとごめん!」
わたわたと慌ててリュックからハンカチを取り出してぽんぽんと撫でるように涙を拭う。
その優しさがまた、涙を引き出す。
「せんぱ、い・・は、やさ、し・・すぎで・・す」
「ええ?」
私が泣いてどうする、これ以上先輩を困らせてどうするんだ。そう思っているのに、涙は止まらなかった。
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