第10章 【第九章】領主の憤り
=桐皇=
「桃井っ!どうしたんっ、自分っ!」
今吉は、領城に帰ってきた桃井を見て、珍しく動揺していた。
「大ちゃん…は…?」
フラフラした足取りで、城の廊下を歩く桃井を掴まえ、肩を抱いて一緒に歩く。
「?!も、桃井さん?!どーしたんですかっ?!」
そこに、桜井が中庭にある実戦場から帰ってきた。
「おい、桜井。お前、青峰しらんか?」
「青峰さんなら、今、実戦場で馬上訓練してますっ!」
「さよか…桜井。お前、青峰こっちに連れてこい。」
「え?!あ、はいっ!!」
桜井は、今吉の命令を聞いて、実戦場に向かって走っていった。
「すみません。今吉センパイ。」
桃井は、今吉の肩を借りてたっているのが精一杯だった。
今吉に一番近い部屋に連れていってもらい、桃井は椅子に座った。
「おう、さつき。帰ったか。」
青峰は、ぶらぶらと実戦場から歩いてきた。
「大ちゃん……っ。ぅ……大ちゃん!!!」
青峰の顔を見たら、桃井は、ホッと安心して全身の緊張感がほどける。そして、涙が溢れた。
青峰は、桃井が泣くのを久しぶりにみて、驚いて言葉を失う。
「大ちゃん…あたし……あたし、守れなかった…っ!…ごめん…なさい…。」
桃井は、止めどなく流れる涙を必死に拭う。
「…テツは…?」
青峰は、ポツリと呟いた。
「…っ。…、美桜を助けようと…でも…失敗してっ……アイツに……塔の上から……っ。」
「……落ちたのか…?」
桃井の言葉を引き継ぐように、青峰は桃井に聞く。
桃井は、青峰の言葉に頷いた。
「…っらぁあーーーーー!!!」
青峰は壁に拳を打ち付け、そのまま壁に額を付けた。
「でも……。でも、きっとテツくんは、生きてる…!……テツくんが落ちていった森、探したけど……いなかったんだもん…。」
「………」
「大ちゃん……これ。」
桃井は、鞄の中から髪の毛を取り出した。
「んだよ、これ………。」
青峰は、髪の毛を桃井から受け取り、気がつく。この髪は……。
青峰は目を見開き、桃井を見る。
「…他国を攻めて領地を奪えっ……逆らったら、美桜は殺すって……」
「…っ!…くそっ!」
青峰は、受け取った髪の毛を感情のまま、床に叩きつけようとして、思い止まる。
桃井のすすり泣く声が、部屋に響いた。