第10章 【第九章】領主の憤り
[ 赤司 * 10年前 ]
俺は見ていた。
母が死んだ所を。
俺を抱き締めて、背中を父に切り殺された。
父は言った。
『…お前も、私に逆らったら殺す。例え、子供でもだ。』
父の非道な目に射ぬかれ、俺は動くことが出来ない。
母の体は、どんどん冷えてく。
暖かい赤い血が俺を濡らす。
『コワイ』
俺の心が、音をたてて壊れていく。
心が、体温を無くしたまま、俺は母親の葬儀に参列した。
「征十郎っ!!」
突然、俺の身体が何かに抱き締められた。
俺は、母の最後がフラッシュバックして、息も出来ない程、パニックになる。
「あーーーーーー!!!!!」
「征十郎!征十郎!!」
パニックに陥った俺の頬を両手で包み込み、額をつけてくる人物。
「!………っ美桜…?」
美桜は、黒いドレスを着ていた。
「…征十郎……せいじゅーろーっ!」
俺の焦点が合うと、美桜は抱きついてきて、俺の胸の中で泣いた。
「………っ……」
ぽたっ。
美桜の髪に、水滴がつく。
ぽたっ。
ぽたっ。
美桜は泣きながら、俺の胸から顔を上げた。
「…一人じゃないよ。…私もいる。…一緒にいるっ!!」
そういって、俺の頬に手を添える。
美桜が泣いてる。
ちがう。
俺が泣いてる。
母が死んで、俺は初めて涙を流した。
数年後、俺は知った。
美桜は、国王の命令に背いて、葬式にやって来たということ。
乳母と黒子だけを連れて、5才の少女が、俺だけの為に。