第2章 【第二章】邪な想いと真心の想い
《 美桜
美桜、君には全て話しておこう。
美桜が疑っている全てのことは正しいと思っていい。
アイツは、富に貪欲であり、欲望に忠実であると同時に狡猾で残忍だから。
昔、俺も君も幼い頃、一度謁見したことを覚えているかい?
アイツは、君の父上にこう言ったんだ。「他国を攻め領地を広げ世界統一を謀ろう、俺なら出来る。だから、王権を譲れ」と。
君の父上はアイツの意見に怒りを露にし、領地への永久幽閉を命じた。
追い返された時、俺の母は死んだんだ。アイツに切り殺された。
今は、俺の力を持ってしても、アイツを押さえることが出来ない。
だから、逃げろ。俺の母の様になってはならない…。
俺が助けに行けるその時まで、逃げるんだ。
征十郎 》
滑り落ちた手紙を、桃井がしゃがんで拾い上げると。たたんでドレスのスカートに閉まった。
美桜は、手紙を読むと頭の中で、記憶が遡っていく気がした。
そう、思い出した。
父は、すごい剣幕で叔父様を怒鳴っていた。
そうしたら、叔父様は凄い目で父と私を見たのよ…。
衛兵に連れていかれる叔父様と征十郎を見て、私は泣いた。
そう、許してほしいって。
けど、願いは届かなかった。
数日後、洛山から叔母様が亡くなったことを知らされた。私は、それを聞いてまた泣いた。
征十郎がどんなに辛いか、悲しいか…
「美桜、美桜姫…?」
さつきが美桜を心配して顔を覗き込んだ。
黒子も、美桜を心配そうに見守っていると。
「…2人とも…逃げて…」
呟いた美桜の言葉は、美桜の部屋の扉を壊して入ってきた衛兵たちの音にかき消えた。
「迎えに来ましたよ。姫。」