あなたの声が聞きたくて【another story】
第11章 澤村大地
「ちょっとだけ、カフェに寄ろうか」
ふわり、微笑む彼女の言葉に静かに頷く。
カランコロンと扉のベルが鳴って店員に来客を告げる。
「いらっしゃいませ。」
見るからに『マスター』って感じのおじさんが1人カウンター内でカップを拭いていた。
「おじさん、カフェラテと…大地くんは?」
「俺はコーヒー、ブラックで」
かしこまりましたと言う声を聞いて窓側の席に座った。
「ブラック飲めるなんて大地くんは大人だね。」
「甘いのはあまり得意じゃなくてな」
注文したのが来るまで、たわいもない話をしていた。家族の話。学校の話。新チームになった部活の話。
ただ、将来の話だけは何となく話づらくて。
「お待たせしました。」
コトリと置かれたカップからは白く湯気があがって空気に溶け込んでいった。
深い色のコーヒーを口に含むとじわり苦味が広がる。
体内から暖まる感覚にほう、と一息ついた。