あなたの声が聞きたくて【another story】
第7章 岩泉一【番外編】3
着付けがすべて終わると両親の居る控え室へと案内された。
「おとーさん。おかーさん。」
控えめに呼ぶと2人は優しく笑ってくれた。
「あのね、」
式の前に、どうしても言いたい事があった。
「今まで育ててくれて、ありがとうございました」
言葉と同時に浮かんでくるたくさんの思い出
小さい頃の記憶なんて曖昧だけれど、
記憶の中のお父さんとお母さんは
いつも笑顔だった。
怒ると怖かったけど、仲直りする時はお菓子を作ってくれた。
私にバレーボールを教えてくれた。
私に徹とはじめを出会わせてくれた。
声の出ない私を支えてくれた。
プロになりたいと言う私を支えてくれた。
我が儘も迷惑も心配も数え切れない程かけた
『ありがとう』も『ごめんなさい』も
何度言っても足りないけれど
「2人のことがだいすきです。」
涙で滲む視界の端にお母さんの足が見えた。
「私達もあなたのことが大好きよ。けど、そんなに泣いたら可愛い顔が台無し。ホラ、涙拭きなさい!パンダになっちゃうわよ!」
こんな時でも容赦ないお母さんの言葉に頷いて目に溜まった涙を拭いた。