第2章 出会い幕前
「お先に失礼します」
花子が仕事を終えて家路につこうと、他のスタッフに挨拶していたら鞄の中から携帯の震えが伝わってきた。
すぐに切れないということは、メールではなく着信ということになる。
流石にまだ院内なので出るわけにもいかず、とりあえずロビーまで移動してから折り返しでかけ直すことにした。
「・・・って、着信正宗からじゃない」
またホストクラブへの呼び出しかしら。
ちょっと前にトイ☆ガンガンの三人目について語られるために呼び出されたから、暫くはもう行かないわよ。
他の用事の可能性もあるから一応折り返しかけた方が良いわよね。
あんまり遅くなると、正宗仕事してるから電話に出なくなるだろうし。
「もしもし?今度は何の用?」
『繋がった瞬間にそれって酷くね?』
「電話してきたのは正宗でしょ。仕事の邪魔にならないように早く終わらせてあげようとしてる、私の優しさじゃない」
この時間だともう店にいるんだろうし、勤務中の私用電話はしない方が良いに決まってる。
「呼び出しても今月はもうオリオンには行かないからね」
『いや、そういうのじゃないんだ。ちょっと花子に頼み事があってな』
「頼み事?」
『あぁ。花子にしか頼めないことなんだ』
私にしか頼めないこと?
思ってた以上に深刻なことなのかしら。
正宗がわざわざ電話してきて、私にしか頼めないことがある。
今までそんなこと一回もなかった。
正宗が困ってたら、正宗大好きっ子の透が手を貸したりしてたから。
透には頼めなくて、私には頼めること。
一体何かしら・・・
『あのな、実は・・・』