第5章 chapter 5
「マジかよ」
「すげーな」
俊が授業中の居眠りから目覚めると教室がざわついていた。
「なに…」
「俊、起きた?」
「うん。なにがあったの?」
「えっとね、佐野が京香に告白したんだって」
俊の動きが一瞬止まる。
佐野俊比古(としひこ)。
同じ吹奏楽部で、成績優秀。ムードメーカーであり、学年一モテる。
そのわりに誰とも付き合わない、という噂。
そして、動揺していることを悟られないようにゆっくり聞く。
「は?京香って水輝…」
「だからみんなビックリしてんじゃん」
「あぁ、そっか。ところでさ」
玲衣が冷たい。
そう俊は感じた。
今朝からなんとなく感じていたことがさらに鮮明に形になっていく。
「なに?」
「あ、いやなんでもない」
「言いたいことあるならいいなよ」
「別になんでもないってば」
「あっそ」
玲衣はそう言うと立ち上がって教室を出て行ってしまった。
さらに怒られる気がして俊は聞けなかった。
玲衣が怒るなんて珍しいからどうすればいいかわからない。
「はぁ…」
「大きいため息」
後ろから声をかけてきたのは、実鈴。
部長である真緒や京香と玲衣とは仲がよく、フルートのパートリーダーをしている。
容姿端麗。この子もずいぶんモテる。
だが、元カレを見ると男を見る目はない。
そして、俊のかつての片想い相手。
「玲衣とケンカでもした?」
「別に。ただあいつが一方的に怒ってるだけ。」
「うーん、あれのせいかもね」
「あれ?」
そう言って実鈴が指を差したのは佐野だった。
「だって玲衣、前は佐野のこと好きだったもの。なのに友達の京香のことが好きだなんて少し嫌なんじゃないかな。」
「しってるけどさ…」
「あ、ごめんごめん。でも、今好きとかそういうことではないよ。苦い思い出のひとつってことだよ」
「でも玲衣は朝から機嫌が悪かった。」
「そうなの?じゃあ、わからない。俊がなにかしたんじゃないの?」
そう実鈴が笑う。
「別に…」
少し胸が痛んだ。