第8章 覚悟
「あのねー、毎回言ってるけどいきなり呼び出されても私にも都合っていうものがあるの分かってる?」
「どうせ帰っても一人で食事だろ?だったらいいじゃねえか」
TGCも終わり、松岡に呼び出されることが少なくなるだろうと思っていた花子の携帯に一本の着信が入った。
もちろん相手は松岡正宗。
内容を聞くと、仕事が終わった後に指定した場所まで来いというものだった。
その電話を取った時まだ仕事場にいたため他の同僚には恋人からの電話かと勘違いされたが、花子のロートーンでの否定で本当に違うのだと納得させていた。
「どうせとか言わないでくれる?しかも買い物から付き合わせるとか、新婚じゃないんだから」
「花子と新婚とか・・・ちょっとやめてくんね?」
「それは私の台詞よ!しかも女性に対してそれは失礼でしょ!謝りなさい!」
女性には優しいと認識されている松岡も、花子に対してはいつも変わらない。
何度花子が言っても変えるつもりがないのだろう。
二人のやりとりは傍から見れば様式美のようなものになりつつある。
つい最近も同じようなやり取りをした記憶が花子にもあった。
松岡にとっては、花子は素の状態を出せる唯一の女性なのかもしれない。
「で、こんなにお肉買ってどうするつもりなの?」
松岡の手にあるのはスーパーの買い物袋。
その中には沢山の肉や野菜が詰め込まれている。
袋は四つあるが、その全てを松岡が一人で持っている辺り、ホストとしての職業病のようなものが出ているのだろう。
もしくはなんだかんだと言ってはいるが、花子をしっかりと女性扱いしているのだろう。