第26章 それは突然の。
階段の一番下まで降りてズボンに入れた煙草を取り出した
煙草でも吸わねぇと、この状況は耐えれるもんじゃない
左ポケットに入れたはずのライターを探り始めると、胸元に違和感を感じた
臨也が突然俺目の前に走って近づき、シャツの上から切れ込みを入れられる
いつもの、苛立たしいナイフで。
俺が怒鳴り声をあげるのもつかの間、臨也は階段の手すりを軽々と飛び越えて駆け上がっていく
「それ以上俺の部屋に近づくな!!!」
そんな言葉があいつの耳に届くはずがない
あまりに突然の出来事に戸惑うばかりだったが、呆然としてはいられない
俺も急いで後を追う
に臨也の姿を見せたくない
そのためには、勝手に部屋に入られる前に引っ叩くしかなかった。
でもやっぱり、こいつの足の速さには敵わない
鍵を閉めていないせいで、簡単に開けられてしまう玄関のドア
あっという間に部屋の中の暗闇に姿を消す臨也
夢中で走った
これまで何回も臨也の後を追って全力で走ったが、こんなに複雑な気持ちで走ったことはなかった
…
「!!」
暗い部屋の中で、白い部屋着のワンピースが床に押し倒されていた
はこっちを向いて、切なそうな顔をして俺を見た
「静雄、どこに行ったのかと思って、…」
それで服を着たわけだ
それでいい
それでよかった…
臨也に、の素肌なんざ見せたく無え
「はこんな状況でもシズちゃんに話しかけられるんだね」
白い喉元に突きつけられたナイフ
俺が近づけば喉とナイフの距離は近くなるのだろう
「、好きだよ…大好きだ。」
そんな言葉とは裏腹に、首を伝う鋭利な刃物
部屋の中のわずかな光がそれを光らせる
今すぐに近づいて、臨也の腕をへし折りたい
「臨也さん、やめて。約束と違うでしょ…」
「耐えられなかったんだ、会いたかったんだ。ごめんね?」
「許されるはずないじゃない。ねえ、どうして静雄に刃物を向ける必要があったの」
気づかないうちに、さっき切られたところから血が溢れ出していた
白いシャツにじんわりと滲む赤いシミ
「わたし、今の臨也さんは嫌いだよ
すごく、すごく嫌い。」
の表情は…何かがおかしい
見たことない、鬱な笑みだった