第26章 それは突然の。
臨也の左手はの髪を荒々しく掴み、右手のナイフは首をそっと沿う
ギリギリ刃の先端は当たっていない
折原臨也は残酷な男だ
今は刃が肌に触れていなくても、
その気になれば平気で傷をつけることができるんだろう
好きな奴にだって、平気で…
いや、
好きじゃないのか
のことが、好きじゃないのか…?
どうして好きな奴に、ナイフを向けることができる?
こんなにおぞましい人格があるだろうか
背筋がゾワッとするのが分かった
身体が動かなかった
の目線は臨也に向いている
口角は上がっているのに、何処か不気味さを感じさせる笑みだった
「こんな状況でも身動きひとつしないんだね
本当に君は、彼女を愛しているのかい?」
と見つめ合ったまま、嬉しそうな、弾むような声でそう話す。
憎い
「それは手前もだ、臨也
なんでお前は、好きな奴にそんな…そんなことができる?」
暫く静かな時間が続き、誰1人声を発することもなかった
そしてまた響く、苛立たしい奴の声
「…どうしてだろうね、」
どうしてだろう
その言葉に、怒りを爆発させるような要素はなに1つなかった
でも身体は臨也を懲らしめることを望んだ
この腕が、手が、臨也を苦しめることを望んだ
「黙れ」
の上に馬乗りになる臨也を引き離し、俺が臨也の上に乗る
ドンっと大きな音を立てて床に頭を打ち付けた
そして俺は、小さな呻き声を漏らして歯をくいしばる臨也の喉を両手で覆った
男にしては細い喉
それを絞めるのなんて簡単なことだった
「黙れ、死ね…クソが…!!!!」
の表情なんて見えやしなかった
分かるのは臨也の、嬉しそうな顔
「ああ、…俺が、見たかった表情だ」
苦しそうな息を精一杯吐き出して声を紡ぐ
躊躇いなんて1ミリもありゃしねぇ
に害を加える奴が消えるなら、それでいいと思った
豚箱にぶち込まれても、を傷つける奴が消えるなら…
俺は、折原臨也からを守りたかった
ただそれだけの事だ
「静雄…」
視界を横に向けると、涙ぐんだ目で俺を見つめるが居た