第23章 《 side S 》寂しがり屋さん
「ってよお…あれか?寂しがり屋か?」
小さな猫の置物、手のひらサイズの観葉植物、羽島幽平が表紙のテレビ誌、煙草、洗剤、食材…
買ったものを整理していると、テディベアを抱きかかえた静雄がそう話しかけてきた
「どうして?」
「だって、茜が俺に抱きついた時、どう思った?」
私は考える時間も作らず、思ったことを素直に話した
「仲良しで、可愛いと思った」
地べたに座って口をぽかんと開けている
「いやでも、寂しそうな目してた、絶対」
「それって茜ちゃんがこの子のこと可愛いって言った時じゃない?」
たくさんの野菜が入ったスーパーの袋から手を離し、私も地べたに座ってテディベアを撫でた
「静雄の友達は皆良い人な気がするし、茜ちゃんも仲良くなれそうな良い子だと思ったよ
でもね、それでも、この子は手放したくなかったんだ…
ちっちゃい子には優しくしてあげないといけないのに、私、静雄を優先しちゃった」
私はテディベアに目線をやったまま微笑んだ
いまでも私たちの手元にあるこの子が、可愛くてしょうがない
「嬉しい……」
「え?」
控えめな声で静雄が“嬉しい”というのが聞こえた
表情を見ようと目線を斜め上にやると、テディベアで隠された
「こっち見んな……恥ずい。」
静雄、照れてる…?
そんな可愛らしい行動に笑いがこみ上げてきた
笑っちゃ悪いと思ってるけど。
「ふふ……」
口から漏れ出してしまう笑い声が、静雄の耳にも届いたらしい
「なに笑ってんだよ」
「くまちゃんが喋ってるみたいで……おもしろくて……」
そうやって笑いながら声を紡いだ
「それ以上笑ったらちゅーすんぞ」
今度はテディベアの手まで動かして…
本当に可愛い。
静雄のがっしりしてるけど細い太ももに手を置くと、きょとんとした表情が見えた
唇を重ねる
1度目はゆっくり…息が苦しくなるくらい、長く。
その後は落ち着かないキスが続いた
何度も何度も、互いの存在を確かめるように
“あなたが愛する人はここにいる”
そう確かめるように。
柔らかい唇の感触と、ほのかに香る煙草の匂い
触覚と嗅覚だけでも静雄を感じれる
目を開けば、濡れた瞳で私を見つめる静雄がいる
「、ごめん、駄目だ」
駄目だ
その言葉の意味を、私は誰よりも理解してる…