第23章 《 side S 》寂しがり屋さん
「これ!可愛い……できるかな…」
は俺の服の裾をつかんで引き止めた後、財布を取り出した
ああ、頭ん中に出てきたセリフだ
自分でプレイしようとするのは想定外だったが、ここは俺の出番
「俺が取ってやる」
期待通りのシチュエーションに心が弾んで、の表情を見ることさえ忘れていた
今俺の視界に映るのは少し大きめのテディベアが山積みになったクレーンゲーム
100円玉を入れてボタンに手を置く
「あ、待って!あの…」
その声を聞いて、やっと落ち着いた感じがした
「どうした?」
が指差すのは、ゲームの奥の方
「手前の方が取りやすいと思うんだけど、あの、奥にある、耳のところに黒いリボンがついてるやつ……」
テディベアは3種類あって、
耳にリボンがついてるやつ、花がついてるやつ、首にスカーフを巻いてるやつ。
はその中でも耳にリボンがついてるやつがいいらしい
「おう、任せとけ」
とは言ったものの…
慣れないクレーンゲームだ。
正直自信とか無ぇよ…
「がんばれ…!!」
手が再びボタンに触れる
1つ目のボタンは奥に進むやつだ
陽気なBGMとは裏腹に、俺の手は強張って思うように押せない
ちょうど良さそうなところで、横から見ているが教えてくれる
「もうちょっと…もうちょっと…………そこ!!」
そこ!!というところで手を離すと、は「いいね!」と言いながら喜んだ
まあいい線を行ってるんだろう
奥行きはこれで確定だ
2つ目のボタンは右に行くやつ
クレーンゲームの横から見ていたは俺の隣に来て見守る
「がんばれ、がんばれ…」
ここかと思うところで手を離す
ゆっくりゆっくりとアームが下に降り、大きく開いた
ガシッと掴んだその先にあるのは、お目当のクマの耳だけ
「ああ…もっと手前で降ろして、胴体つかみたいな…」
はガラスの向こうをまじまじと眺めている
2回目は足だけを掴み、
3回目はタグを掴み、
4回目はまた耳を掴んだ
素晴らしいほど別の場所を掴む…
「静雄…これで無理だったら、もういいよ?」
俺を見つめているのがわかる
「いや。スッキリしねぇから取れるまでやる」
そうしてまた、ボタンを押した