第22章 《 side S 》 あなたのすきなもの
「静雄、それ奥までちゃんと混ぜないとお肉焦げるよ?」
「肉入れたか?」
「?!」
私は玉ねぎを切る手を止め、ナベを覗き込んで菜箸でつついてみた
「入ってるよ!焦げてる!!」
覗き込むと、熱い湯気が目を刺激した
「おお……!!ごめん!!いつの間に入ってたんだ!」
「まぜてまぜて!まぜて!」
私は滅多に見れない驚いた静雄の表情が面白くて、声を出して笑った
そんな私を見て静雄もつられて笑うのはいつものこと
ちょっと焦げ臭いナベを覗き込んで、そこから上がる湯気に熱い熱いと手を跳ねさせる
そんな姿は、お母さんの料理を手伝う子供みたいに見えた
「…?」
驚いた…ふと顔を見れば静雄が…
目をうるうるさせ、時たま瞼をぱちくりさせている
「どうしたの…?お肉焦がしたの、そんなにショックだった…?」
「ちげぇよ!!!………玉ねぎ……」
ついには目から涙が溢れ出した
「玉ねぎ?」
ああ、静雄、玉ねぎが目にしみて泣いてるんだ…
かわい……
駄目だ、笑ったら静雄に怒られるって分かってるのに口元が勝手に…
「ふふ…」
「…今、笑ったな?」
「ごめ…ん、静雄、かわい……ふふ…」
わたしが笑えば静雄も笑う
静雄が笑われてる立場なのに、静雄も笑う
そんな静雄が可愛くて、愛おしい
料理っていいな
なんか、ますます距離が縮まった気がするよ