第21章 《 side S 》 池袋の人々
午後6時過ぎ。
この時間にしちゃあ明るい方だ
季節が夏へ変わっていくのが、目に見て分かるようになってきた
今日は帰ったらがいる
一人暮らしの時は言ったこともなかった「ただいま」を言ってみようか
そんなことを考えながら帰路につく
「ただいま」と言ってみたものの、返事はなかった
返事がないどころか、人の気配すらない
買い物からは帰っているはずだ
だとしたら何処かに出かけているのか…?
リビングへつながる扉を開けてもは居ない
「いるか?」
それに対する返事はこの家のどこからも聞こえてこなかった
帰ったら嬉しそうに話をしてくるの笑顔を想像していたから、その寂しさは大きい
最後に寝室の扉を開けた
思わず笑みがこぼれる
はベッドの上で気持ち良さそうに寝ていた
右手にはスマートフォンが握られていて、自動消灯の設定をしていないのか画面がつきっぱなしだ
起こさないようにゆっくり近づいてみると、それはメールの作成画面だった
「宛先 : 平和島 静雄
件名 : (*^ω^*)
本文 : 今日ね、静雄の友達と話したよ!
ワゴンの4人組!!
みんなで話してたら、早く静雄に
会いたくな 」
買い物に疲れて帰ってきて、眠かったのにメールを打とうとして…
耐えきれず寝てしまったんだろう
メールの内容は途中で終わっていた
起こすつもりはなかったし寝かしておいてやりたかったけど、
“早く静雄に会いたくな”……という言葉にやられた
枕元に手をついて顔を近づける
「、なあ、お前ほんと可愛いな…」
見つめるだけじゃ物足りない…
そのままゆっくり、スースー寝息を立てる唇に口付けた
口で息をしているから起きないはずがない
俺は目を閉じずに、が起きる経過を見守った
最初は半分ほどしか開かなかった瞼も、俺の姿を確認するとぱっちり開く
その奥に佇む綺麗な黒の瞳
驚いているためか、目を丸くしてこっちを見ている
いつまでもそんな可愛らしい姿を見ていたかったが、の息が苦しくならないようすぐに唇を離した