第19章 《 side S 》とっておきの、恋
食事や後片付け、寝る支度を終えた時、夜はもう既に遅くなっていた
私は昨日と同じようにベッドに腰掛ける
一方の静雄は窓の桟に肘をつき、煙草を吸い始めた
部屋の照明は豆電球だけど、真っ暗に等しい
その代わり今夜は月光が眩い
静雄の金髪は青白い光に照らされ、とても綺麗…
ずっとそんな光景を眺めていた
暫くの間、互いに口を開くことはなかった
「そろそろ寝るか」
そう言われたのは彼が煙草を吸い終わった頃
沈黙は長かったけど、決して眠くはならなかった
何か考え事をしていたわけじゃない
ただ、静雄の後ろ姿にうっとりしていただけ
窓を閉めて壁にもたれかかり、手に持った灰皿に煙草を押し付ける
ただそれだけなのにすごく大人っぽくて…素敵。
「今まで付き合った人って、どんな人だった?」
しんみりとした部屋に私の声だけが寂しく響く
自分でも質問の意図がよく分からなかった
何も考えずただ口から出てきた言葉
困ったように微笑む静雄
「なんか、すげえこと言っていいか?」
私は微笑み返す
「どうぞ」
長らく黙り込んだ末、静雄はやっと口を開いた
「お前が初めてだ」
私はたぶん、すごく驚いた表情をしていたと思う
「普通の女は俺を怖がって近づいてこねえからな」
「……怖い?」
少し考えてみる
静雄が怖い、か…
イメージしてみて浮かんだのは、過去に噂で聞いた話
自販機、道路標識、コンビニのゴミ箱…
それらを最も簡単に投げてしまう“池袋最強の男”
確かに怖いところもあるかもしれない
でも、静雄の第一印象は“私を心配てくれてる人”
真摯で素直で、とてもいい人だって思う
「そっか……私が初めてか……」
不覚にもニヤニヤしてしまう
「ということは、昨日のアレも?」
「…おう。」
恥ずかしいのか、こちらに向けられていた視線は逸らされる
「本当に…?すごくうまかったのに」
「ちょ、馬鹿!そういうことサラッと言うなって……恥ずかしい……」
そんな彼の、どこか幼い発言が可愛すぎて、声に出して笑ってしまった