第19章 《 side S 》とっておきの、恋
「なあ、玉ねぎこっちのが安いぞ」
「…え?」
大雑把そうな静雄の口から出てきた、意外な言葉
普通なら「じゃそっちにしよう」と返事できるところを、「え?」と言ってしまった…
「どうした?産地とか気になるか?」
「いや大丈夫、そっちにしよう」
私がそう言うと彼は微笑み、手に持っていた玉ねぎをカゴの中のものと交換した
意外だな…意外だけど、すごく好感が持てる。彼のこういうところはすごく好きかもしれない。
その後も色々な食材を見てまわり、最終的にプリンも買った
買い物は楽しい。
一緒に行動するだけで色々分かる
付き合うことにはなったけど、私はまだ静雄さんの何も知らなかった
だからすごく良い機会だったと思う
袋いっぱいの商品は、言い争った結果静雄が持っている
何回も何回も、私が持つって言ったのに…
「俺は池袋最強って言われてんだ。そんな奴が女に荷物持たせるってな……分かるか?空気読め」という言葉には敵わない
この1ヶ月間は静雄が私の彼氏
1ヶ月を過ぎると、私は臨也さんのものになる
気持ちの切り替えは大変だけど、静雄はほんとうにいい人だから
心底付き合ってもいいと思える人だから
付き合いを申し込まれて初めて気付いた恋愛感情
もっと彼を知りたいと思ってたし、親密になりたいと思ってた
……だから、この1ヶ月間は精一杯静雄を愛してみよう
今は、臨也さんのことを忘れて彼だけを見ていよう
重い袋を右手だけで持ち、左手を開けている静雄
私がそこに手を添えると、嬉しそうな笑顔を見せた
なんだか嬉しくなって馴れ馴れしく腕に抱きついてみた
彼は私よりも断然身長が高くて、それは何故か甘えたいという気持ちを大きくさせる
「可愛い。」
ボソッと呟かれたその言葉は聞き逃さなかった
けど、あえて気付かなかったフリ
照れたようなその表情。
すごく愛おしかった