第3章 赤い瞳
折原さんの事務所は新宿にあった
高層マンションの最上階
大きな窓、パソコンと立派な椅子、
綺麗に整頓されたすごい数の書類
そして、いろいろ入り混じったルールの分からないボードゲーム
無造作に置かれたトランプ
意味はわからなかったけど、
それは折原さんを表すのに相応しいものだと思えた
「ここ、座りなよ」
ふかふかそうなソファ…
「手伝います」
「そう?ありがとう」
何気ない会話が嬉しかった
折原さんは一見完璧な人
端正な顔立ち、仕事もこなせそうな事務所、
調理の手際の良さ、そして魅力的な赤い瞳
でも、どこかおかしな人なんだろうなとは思う
折原さんは格好良かった。そして優しかった
東京に来て初めて友達と過ごす時の流れは、
いつもよりすごくすごく、はやかった
「」
食事が終わって気になっていたふかふかのソファでくつろいでいると、
突然名前を呼ばれる。私は大袈裟なほどに驚いた。
紅茶の入ったティーカップは大きくグラついたが、溢れることはなかった
「えっと…その、なんでしょう…」
「ここで暮らしなよ」
冗談かと思える位、大胆な発言だ
ここまで驚かされるともうむしろリアクションが無くなる
私はさっきまでと全く声色を変えて返事をする
「どうしてそんな提案を?」
「だってね、」
折原さんは立派な椅子に座って、デスクに肘をついた
細身なのにその椅子は彼にとても似合う
「ここは俺の場所だから家賃もいらない。
昼間は秘書が来るけど、夜、一人で居るには広すぎる。」
「夜もここにいるの?」
「いないよ。でも君がここに住むなら俺もここに居る」
真っ直ぐな目をしていた。
「とにかく俺は、君が気に入った」
私の頬は多分赤く染まっていたと思う
そんな様子を見て笑う折原さん
「でも…」
「何か不満がある?」
折原さんは席を立ち、私の隣に座る
そして私に用意してくれたティーカップに手を掛ける
「俺は人ラブだからさ、人が何を考えてるかなんてお見通しなんだよ」
『俺に好意があるんでしょ』
彼はふざけてなんかいない
しっかりと意志を持った目をしてる
「でも私、何が気に入られたのかも分からないし、
数時間前に会ったばかりなのに…」
否定の言葉を並べる
けど、何故だか一緒に居たいという気持ちはおさまらなかった