第14章 煙草の匂い
静雄さんの家はとても綺麗だった
でも殺風景だった。
臨也さんの家は広いけど、波江さんが来てくれるから寂しくないと思う
でも静雄さんはこの小さなアパートで目覚ましをかけて朝を迎え、朝食を作って食べて、出勤して、夜も1人で、洗濯も1人で…
そう考えると何故か私が寂しくなった
そんな私に彼は、口をモゴモゴしたまま“どうした?”と聞いてきた
「何もないですよ」
何処となく可愛らしい静雄さんを見て、心から笑顔になれた
食べ終わってから、本題に入る事になった
一人暮らしだから同じ椅子が二つなくて、
私はベッドに座り、静雄さんは床に胡座をかいて、ベッドにもたれかかる形で座った
話を進めていくうちにやっぱり辛くなってきて、時々吃ってしまう
その度に静雄さんは右下から目線をこちらに向けて、
「辛かったら話さなくていいぞ。何となく俺が察してやるから」
と言ってくれた
首の件はあまり話したくなかった
話したいとか話したくないとかそういう問題じゃなくて、
まず、安易にヒトに話せる事じゃない。
取り敢えず、情報屋としての仕事を目の当たりにしてしまった事、彼への信頼が薄れてしまった事、好きなのかどうなのかも曖昧だということを話した
全てを話し終えた時、私の目からは熱い液が溢れ出しそうになっていた
感情的になっていたんだろう。
それが零れないように、少し上を向いたりした
いや、多分泣き出しそうなのはバレてる
それを拭おうかと左手を顔の近くに持ってきた時、
静雄さんが突然立ち上がった
正面に立っている彼の表情を、涙で潤った目で見つめた
何か話すのかと待っていたけれど、彼は口を開こうとしない
それはとても奇妙な時間だったし、私から何か言おうかと悩んだ
でも話したいことがあるから静雄さんは立ち上がり、私の正面に立っているわけだし…
彼の考えていることは全く見えなくて、少し困惑してしまった
会話が進んだのは数十秒後。
「なあ、俺今から、お前がびっくりすること言うぞ」
「どうぞ」
「俺の方がお前を幸せにできるから
付き合わないか?」