第14章 煙草の匂い
改札を出ると、すぐに鞄から携帯を取り出して両手で握りしめた
さっきこの端末から静雄さんの声が聞こえてきたんだと思うと、それだけで安心できたから。
そんなくだらない理由でこの携帯はお守りみたいになっていた
必死に探したけど、見つけるのは彼の方が早かった
「!」
私の名前を呼び、人混みをかき分けて近寄ってきてくれる男性は勿論静雄さん。
目尻が熱くなって、喉がキュッと苦しくなった
今にも泣き出しそうな顔だったんだと思う
彼は凄く不安そうな顔になって、頭を撫でてくれた
本来ならドキドキするような場面なんだろうけど、今はそんなこと考えられなくて。
ただひらすら、彼に会えたことが嬉しくて。
「手、掴むけど嫌がるなよ。逸れないようにする為だから。」
そう言って私の手首をやんわりと掴み、歩き始めた
無言のまま、夜風を浴びながら歩いた。
静雄さんはずっと手を離さなかった
人混みから離れて、逸れることがなくなっても、ずっと。
嫌とは思わなかったし、寧ろ人の温かさが感じられて幸せだった
その人の体温というのが静雄さんということが、もっと幸せだった
池袋駅から少し歩くと、比較的新しく見えるアパートの階段に静雄さんが座り込んだ
勿論手は離された
少し心細いなんて思ってしまったりした
いいのかな?と思いつつ私もその横に座る
「俺の家入んの、抵抗あんだろ?……なんていうか、その、まだ知り合って日も浅いわけだし。」
私は少しきょとんとしてしまう
「いや、でも今日どうすんだ?同棲してんなら帰りたくないだろうよ。それとももう吹っ切れたか?」
黙ったまま首を横に振った
「だよな…お前が嫌じゃないなら晩飯とか…」
「そんなの悪いです!」
「いや、晩飯程度で悪いなんか言われちゃあ困る。泊まってくか?とか言おうとした俺が馬鹿みたいだからやめてくれ」
「…え、泊まっ……」
この人凄く爽やかに、サラッとイケメンな事言い出すから困る…
「だよな、確実に浮気だと思われちまうよな、お前の彼氏に。」
「彼氏?」
「え?」
私の疑問系に対して疑問で返してくる静雄さん
「付き合ってねえのか?」