第14章 煙草の匂い
「落ち着け、大丈夫だから。取り敢えず…そうだな、池袋まで1人で来れるか?」
静まり返った部屋で、“首”と私しかいない部屋で、静雄さんの声を聞く
これから会えるという安心感に包まれて、一言返事をした
「行けます」
「そうか。じゃあ俺もすぐ駅に向かう。改札近くで待ってるから」
低く深く、耳に響いてくる彼の声
「分かりました」
「俺はお前の味方だから。そう思って安心しとけ」
私は小さく「はい」と言って電話を切った
電話を切ると、静雄さんの優しさを噛み締めながら鞄を持ち上げる
実際、お前の味方という言葉には安心感をくれる何かがあった
携帯の充電がないとか、お腹が空いてるとか、今から雨が降るとか
そんなことは考えられなかった
とにかくこの家の中にいるのが落ち着かなくて、
はやく静雄さんと話がしたくて、慌てて家を出た
臨也さんのことを根っから嫌いになったわけじゃない
気持ちが少し失せただけだと思う。
寧ろ好きだから。
大好き。
でも、臨也さんがしていることは理解してあげられない。
でも…
やっぱり好きなことに変わりはない…んだと思う。
だからこそ、今こうやって家を出て行こうとすることに後悔はあった
気持ちは後悔をしているけど、身体はあの人が待つ池袋へ行こうとしている
どういうことなんだろう。
本当の私の気持ちは、彼を心底憎み、嫌い、厭がっているのかな。
頭の中は正反対のいろいろな言葉で埋め尽くされていた
「臨也さん……好き。厭だけど、貴方のことはずっと好きだと思う。」
ボソッとそう呟きながら、小さく震える手で家の鍵を閉めた