第13章 “本当の”臨也さん
“ ”
それは紛れもなく私の名前……
戸籍謄本、住民票
私についてのあらゆる情報がそこにファイリングされていた
声が出ない
それ以前に言葉が出なかった。
この状況に対してどう思えばいいのか分からなくて、とにかく頭が真っ白になった
そのファイルを再び元の位置に戻し、他のファイルに手を掛ける
開いてみると、案の定それは大量の個人情報
一目で彼が悪事を働いているのが分かった
こんなことして良いわけないじゃない。
私はある日の出来事を思い出す
ファイルを片手に持ちながら、誰かと電話越しに会話をしていたこと。
「ええ勿論。5000で売りますよ」
今思えばそれは、紛れもなく個人情報の売買だった
頭が回らなくて暫くその場に突っ立っていた
こんな事実を知ってしまった私はどうすればいいんだろう
臨也さんにどんな作り笑顔を向ければいいんだろう
私は、こんな彼を愛せるのかな…
ぼーっとする私の意識に区切りをつけるように、突然複数のファイルがドミノ倒しになった
さっきファイルを引き抜いたところからバランスが崩れたらしい
私はそれを直すために棚の一番端に行って、倒れたファイルを起こしていくことにした
「なに………これ………」
そこにあったのは、綺麗な女の生首
怖くなって、足が竦んだ
手が震え始める
持っていた分厚いファイルは、大きな音を立てて床に落ちた
「この街にはデュラハンっていう、首なしの妖精がいる。
黒バイクってみんな呼んでるんだけどね。
池袋でなにしてるかって?
首を探してるんだよ。
池袋に首の気配があるらしい。
この街のどこかに生首があるなんて、怖いよねぇ…
はやく見つけてもらわないと。」
どうして隠すの……?
どうしてヒトの探し物をわざわざ隠すの……
酷い。
ごめんなさい臨也さん
最低だよ
あなたへの想いは、少し失せてしまった。
あなたは間違ってる……
私は必死に鞄の中を漁った
あの日、静雄さんに貰ったメモが財布に入れてある
その数字を、震える手で必死に打ち込んだ
頼ってもいいんだよね。
私が今一番会いたいのは静雄さんだった。