第12章 静雄さん
「あのまま顔合わせねえでいたら、お前が不安になるだろ?
だからちょっと顔出しに来ただけだ」
本来なら綿のように柔らかいはずの優しさが、棘になっての心を刺激する
がずっと下を向いて全く笑顔を見せないので、流石に静雄はそれを気にかけた
「ノミ蟲になんか嫌なことされたか?」
彼の優しい言葉はますますの心を痛めつけていく
着々と、確実に。
「なにもないです」
「そうか。なんかあったら言えよ?俺がポストでも自販機でも、なんでも投げつけてやるからさ」
「なんで公共物を投げようとするんですか」
彼女は心の底から微笑んだ
作り笑いでもない。
彼が彼女を、本当の笑顔にさせた
しばらく談笑した後、静雄は何も買わずに店を出るのは悪いと言ってペンを一本買った
それはが仕事中ずっと胸ポケットに刺しているものなのだけど、お互いそれは一切言わず。
それが偶然なのか意図的なものなのか、彼女はそんなことばかり気になったりして。
「じゃあな」
「また来てくださいね」
次会えるのはいつになるのか分からないな
そんなことを思いながら、は静雄の笑顔を目に焼き付けた
あどけないその笑顔は彼女の心をあたためる
臨也に惚れたときと同じような感情が駆け巡っていた
それと同時に静雄も、に対して少しばかりの恋愛感情を抱いていた
そんな事実に気づいてはいたけれど、自分の本心を否定する言葉を挙げ続ける
“これは恋愛じゃない”
そうやって自分に言い聞かせることが、今、唯一できることだった