第5章 関わるな
戻ると、ソファにトムさんが座っていた
事務所にはトムさんと社長、
それともう一人先輩がいるだけだった
トムさんと俺が話さない限り、
事務所の中はしんとしていた
そんな中突然俺の名前が呼ばれる
声の主は、何か書類のようなものを書いていた社長だった
「このペン、家から持ってきてくれたやつだよな?」
「ああ…そうです、俺が。」
「インク切れちまってな…
これ売ってる店知ってるんなら、買ってきてほしいんだが…
ああ勿論、金は出すからよ」
社長は見事にペン回しをしながらそう言った
ちょうど仕事に出るまで時間があったし、すぐに席を立った
「いまから行ってきますわ」
「悪いな」
文房具とは縁のない俺だが、社長にあげたペンは確かに良かった
来神に通っていた頃、ノミ蟲に字の間違いを指摘されてムカついて、手に力が入って折ってしまったペンもそれだ。
まあ、いつも違うの選ぶのが面倒だったから同じの買ってたってのもあるんだけどな
俺は事務所から一番近い文具店に入ることにした
つい最近引っこ抜いた店の前のポストは元に戻ってた
店に入ってレジの前を通り過ぎた時、妙な視線を感じる
俺、すげぇ見られてる
そりゃあそうか
平和島静雄が文具屋に居るなんて変な光景だろう
いや、なんだ…違う
珍しくて見てる感じでもねぇ
妙だ。
妙なのは視線だけじゃない
気持ち悪りぃ
「くせぇ…」
思いっきりレジの方を睨む。
「ゔっ…」
嫌悪の声が出る
おいおい……
「あ、い、いらっしゃいませ〜…」
見覚えがあるぞ
半笑いの女…こいつ…
黒いVネック着てやがる…
「お前、昨日折原臨也と一緒にいた奴だな。
その服クソノミ蟲野郎の服だろ
くせぇ。
あいつとどういう関係なんだよ、答えろ」
「クソノミ蟲…」
女はなんか悲しそうだった
半笑いの顔が曇っていく
俺はやってしまったと思ったが、言葉の撤回はしなかった
「あの、もしかして、平和島静雄さんですか…」
すげぇ嫌そうな顔しやがる。
「ああそうだ、平和島静雄だ。」
俺の声はだんだん不機嫌になっていく
女が泣きそうな顔してるならまだしも、
睨むような目しやがるから…