第28章 《 side S 》 時間の使い方
『静雄お兄さん、おかえりなさい』
私の視界はモフモフの毛玉で覆われている
その正体は
「あ?あー、あれだ、お前のくま…」
テディベアから少しだけ顔を離して静雄の表情を伺う
そうそう…
見てる見てる
「これ…こんな位置にあったっけか?」
「よく気づきましたー!!そうそう、このリボンはね、もともと耳についてたの」
「どうして首に付け替えたんだ?」
…ばか。
鈍感め。
「…ん。」
すぐに気づいてくれないのが悔しくて、素っ気なく彼の蝶ネクタイを指差した
そっぽを向いてみたけど、横目でチラッと静雄の顔を見る
「あー……ああ……」
照れ臭そうに笑う静雄
馬鹿め。
鈍感め。
可愛い奴め……。
そしてまた顔の前にテディベアを持ってきて、声を当てる
『ぼくの名前はくましずおです
ちゃんが寂しいときに、静雄お兄さんの代わりに相手をしてあげます』
「あーそうか。分かった。のことよろしくな」
静雄はそう言ってくましずおの頭を撫でる
『いまは静雄お兄さんがいるので、くましずおは引っ込みます』
「はい、いまは本物の静雄が相手してよね」
わたしがそう言うと、静雄はくましずおにしたようにわたしの頭を撫でた
「分かった分かった」
静雄は部屋着に着替えるために部屋へ行った
時計の針はもう7時過ぎを指していたので、晩御飯にするにはちょうど良い時間帯だ
くましずおを椅子に座らせてキッチンに立つ
その間も部屋からはベルトを外す音、ハンガーとラックが触れ合う金属音が聞こえてきた
そうして、動きやすそうな格好になった静雄が戻ってきた
「なあ」
「ん?」
「自分で言うのもなんか嫌なんだけどよ、」
「うん」
「お前ってさ、四六時中俺のことばっかりだよな」
計量カップを持つ手の力が恥じらいで緩みかけた
思い返してみれば確かにその通り
静雄がいるときは静雄に尽くす
静雄がいないときはくましずおに頼る
それって四六時中ってことになる
「なんだ、その…良いのか?」
「え?」
「もっと、したい事とかあるだろ」
したい事…?
あるのか?