第28章 《 side S 》 時間の使い方
「一緒に昼飯」か……
彼の職場の上司と食事をするなんて、たとえそれがファストフードであっても緊張ものだ
そんなことを考えていると昼ごはんはファストフードを食べたいとか思ったりして
今一番近くにあるのは、門田さんたちのワゴンに乗せてもらった時に食べたあの店
懐かしいな
全然日にちは経っていないのに大分前のことに思えてしまう
思い出がありすぎて、たった数日の出来事を振り返るのも大変なくらい
わたしは思うままに店に入り、期間限定の文字が刻まれたハンバーガーを買った
静雄がCMを見て「これ絶対おいしいぞ」って言ってたやつ
限定ものはあまり好きじゃない!みたいなことを言ってた気がするけど、
彼は無意識のうちに限定ものに惹かれてる
いつになったら自覚するのやら。
ポテトはSサイズにしておいた
なんでだろう?
なんとなく。
そうだ、静雄はこういうところに入るといつもメインの食事を少なめにして、「スイーツ食べてるようにあんまり食わねぇんだ」って言うから
その癖がうつっちゃったみたい
帰り道はそう長くない
店を出て車道をしばらく歩いて路地裏に入り、またしばらく歩くと着く
お気に入りのバンドの曲を耳に流し込む
最近見たテレビドラマで聴いて、気に入ったやつ
テンポがちょうど、歩くスピードと同じだった
静雄はイヤホンをしない
曲もあんまり聴かない
でも芸能界には聡いから一応知ってる
それもこれも全部弟さんの影響
チラッと見えた聖辺ルリちゃんのポスターを横目に、角を曲がった
こうやって池袋の街を歩いていると、些細なものから色々な思い出が蘇ってくる
色々なことを考える
色々なことを考えるけどそれは全て静雄に関係してることだった
彼と出会っていなければ池袋はただの都会
ただ人が多いだけの街だっただろう
初めてこの街に来たあの日と、全然違う空気が流れてる
静雄と出会いもっと魅力的になったこの街で、毎日楽しく過ごしてる。
家に帰ったら、今日買ったものを机の上にガサッと出そう
そして計画を練りながらハンバーガーを食べるんだ
今日買ったものもまた、静雄のせい
全く、罪だなぁ