第28章 《 side S 》 時間の使い方
上京したのは、憧れの街…都会で、好きなように、フラフラ暮らしたかったから
仕事なんかをしにここにきたわけじゃない
一応アルバイトはしてるけど、静雄と一緒になってからはなるべく休みを取るようにしてた
貯金を切り崩して暮らすこの生活になんの不満もない
憧れの都会でこうやっていい人を見つけて過ごせるのなら、お金が減ったって構わない
そしてわたしは今日も休み
対する静雄は相変わらず朝早くに家を出る
窓から見える静雄の背中を見つめて独り言を呟いた
「また歩きタバコしてる」
煙草に対する印象もだいぶ変わったんだよな
昔は嫌いで嫌いでしょうがなかった
煙たくて、そんな中で息するのが気持ち悪くて
でも今はアメスピのあの香りが静雄の目印
いい匂い。好き。
もし静雄のことは好きなのに離れなくちゃいけなくなったとしたら
その時にわたしが静雄を一番強く思い出すのは、あの煙草の香りじゃないかな
バーテン服の後ろ姿は角を曲がり見えなくなった
朝の日差しを上半身に浴びて伸びをする
そしてわたしも外出の準備
小さなバッグに鍵と財布、昨日スーパーで買ったグミを詰めてケータイにイヤホンを挿す
服は手抜きでいいかな?
デートじゃないしすぐに帰るから誰にも会わないだろうし
このワンピース、わたしが地元でいっぱい着てた気に入ってたやつ。
ちょっと薄手だから、東京に来たばかりのあの頃はこれを着るにはまだ寒くて…
そういえば静雄の前でこれを着たことはなかったかな
デコルテの露出がちょっと多めだから、怒ったりするかな
「なに色気づいてんだよ」って
でも彼は、わたしの押しには弱いんだ
「好きにさせてよ」って反抗したらきっと、「悪りぃ」って言う
そんなこと想像してたら可笑しくて、口紅を塗ってる最中なのに口元が緩む
さあ出かけよう
足を進めていくと、静かな雰囲気からは一転
せわしない人々が行き交う街に出た