第3章 赤い瞳
新宿の朝
が目を覚ましたとき、
時計の針は7時半を指していた
見慣れない天井が目に入り、
彼女は1番に、ある男の名前を思い出す
‘‘臨也さん”
昨日初めて会ったとは思えないほどに、
鮮明に思い出せる
そして彼の様子を見に行こうと、ベッドから降りた
臨也はソファで寝ている
横向きで体をかがめるようなその寝相のせいか、
なんだか幼く見える彼
「可愛い…」
綺麗な黒髪を指先でつまむ
少しピクッとしてまた体をかがめた
子供みたい、とがクスクス笑う
は自分が寝ていたベッドから持ってきた毛布を臨也に掛け、
何か朝食を作ろうと思い立つ
これは彼女にとっての憧れだった
好きな人と一緒に暮らし、
自分が先に起き、
2人分の朝食を作ること。
昨日出会ったばかりだったから、何が好きなのかも分からない
悩みながら冷蔵庫の扉を閉めた時、
ひっそりとキッチンの片隅に置いてあった本が目に止まる
たった1枚だけ、そのページだけに貼られた付箋
‘‘フレンチトースト”
一人暮らしを始めて約一ヶ月が経っていたから、
料理はそこそこできるようになっていた
臨也に気に入られたいばかりに、いつも以上に料理に精を出す
そんな自分の思いに気づき、
自分は本当に彼に惹かれてしまったんだ、と思う。
いま、その赤い瞳はまぶたに隠れて見えない
けれどそれが見えなくても愛おしい
眠る彼は昨晩のような色気が一切無く、
可愛いとすら思えてしまう…
「俺は、君が好きなのかもしれないな」
昨日の夜、臨也が夢の中で言ったセリフを思い出した
頬にキスをされる直前、夢の中で聞いたのだ
それは本当に臨也が口にしたセリフなのだけど、
そうと知ってもその事実を簡単には受け止められないだろう
「こんな素敵な人が、私のこと好きなはず…」
そんな調子だから、彼女は頬にキスされた意味が気になって仕方なかった。