第28章 《 side S 》 時間の使い方
「明日で1週間だってよ」
「早いね」
「早ぇな」
早い。
あと同じ時間の長さを3回繰り返してしまえば、静雄との時間が終わる
早い。
「お前、なんかしたい事とかねぇの?」
「したい事…?」
そういえばこの1週間、一緒に買い物をしたりちょっとふらっと出かけたり、そういうのばっかりだった
特別なことは何もない
何かしたいこと…
「夏祭り!一緒に…」
思いついて嬉しくて大きな声が出てしまった
静雄は目をまん丸にして、わたしを見つめてくる
そして突然笑い出す
「お前………あのな、まだ5月だぜ?夏祭りが始まる季節になったらお前は臨也んとこだ」
「臨也と行ってこいよ」
違う、そうじゃない
そうじゃないんだよ….
「静雄と行きたいんだけど。」
この気持ちが強く伝わるように、静雄の心に深く刻み付けられるように、わたしは少し声を大きくして言ってみた
そして、初めて静雄に向ける少し怒ったような声
聞きなれない声のせいか困ったような顔をして静雄は首をかしげる
その次には、いつもの笑みを見せてくれた
「探してみっか」
つられてわたしも笑顔になってしまう
静雄がケータイを開いて操作を始めると、わたしはその背中に抱きついて一緒に画面を覗き込んだ
「旅行も行きたいなぁ。和風な温泉付きの旅館に泊まって、静雄の浴衣姿が見たい。金髪だけど似合うと思うんだ、和風っぽいの。」
「和風な旅館だから晩御飯も和食だね。和食……そうだ、カニとか?いいねカニ!!カニ食べたいよ静雄〜チョキチョキ」
背中から腕を回して、静雄の見えるところで手をチョキチョキさせてみる
ずっとわたしは静雄のケータイ画面を見ていたけど、わたしが話し出すとその動きは少なくなっていった
言葉も発さない…
「どうしたの?」
「お前なぁ……カニは冬が旬だろうが。温泉も好んで夏に入るやつなんざいねぇって。」
「冬…」
冬、と確認するように呟いてみる
「冬になってもお前が俺のそばにいるとは限らねぇよな」
チョキの形をした手はだんだん力を失い、静雄の膝の上に落ちる
「ごめん」
「なに謝ってんだよ。臨也んとこに居る可能性の方が高いってか?」
「そうじゃない、けど…」
静雄の背中がすごく居心地悪い。