第27章 《 side S 》セルティさんと新羅さん
私たちの食事が終わったあと、2人でベランダに出ようと誘ってくれたセルティさんは色んな話をしてくれた
具体的に言ってしまえば、静雄がわたしのことをどう言っていたか。
2人でベランダの手すりに肘をついて。
いわゆる恋バナ……とかいう…
付き合い始めてからのことは勿論のこと、
付き合う前…
わたしを好きになってからあった嬉しいことはたくさん聞かされたみたい
今日池袋であいつを見かけた、だとか
文具屋に行った、だとか……
そうだ、あの日のことも言ってた
文具屋に静雄が来て、わたしの胸ポケットに入ってたペンと同じのを買って行ったこと
静雄は何も言わなかったし無意識だと思ってたんだけど、どうやらそうではなかったとか。
「無意識だからな?勘違いすんな、無意識だから!」
って、何度も恥ずかしそうに言ってたらしい
【無意識にちゃんのこと、意識してたってことだな】
なんてからかわれたりして。
一方の静雄は食後だからかウトウトしてる
暖かな太陽の日差しに照らされて、今にも昼寝を始めそうだった
5月の風も優しく室内を駆け巡る
セルティさんは誰にでも平等で、優しい人
岸谷先生も静雄も、口を揃えてそう言った
何かに悩んだ時、切なくて苦しい気持ちになった時、
彼女になら何だって打ち明けられそうな気がした
「ちなみに岸谷先生とは、どのようなご関係で…?」
普通よりも小さなボリュームでそう問いかけると、PDAに触れる手は焦りを感じさせる動きをした
【い、いや、その別に!!!そんな好きだとかそうじゃないとかじゃなくてその…!!】
「でも少なからず、岸谷先生はセルティさんのこと…大好きですよね」
たった数時間しか彼を見ていなくても、それはすぐに理解できたこと
私はそんな可愛らしい挙動を見つつ、洗い物をする岸谷先生に目をやった
何だろう、まだこの2人をよく知ってるわけじゃないけど……
……どこか、すごくお似合いな気がするんだ
2つ並んだパソコン、互いの似顔絵がプリントされたマグカップ、セルティさんが帰ってきた時に幸せそうな顔で出迎えた岸谷先生
岸谷先生の名前を出すと照れるセルティさん
この家で繰り広げられる幸せな生活が、安易に想像できた
【静雄のこと、よろしくな】
PDAに刻まれた文字は、私の心の奥底にも刻み込まれた
