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【薄桜鬼企画】盧生の夢

第2章 想いを馳せて


張り詰めた空気感を感じた。それは季節特有の寒さではないと容易に区別のつくものだった。

刀の金属音を聴き足を止めれば、そこに居たのは斎藤だった。
その斎藤と相対している敵もまた見知った顔。天霧九寿と名乗る鬼。

しかし千鶴が足を止めた理由は、そことは別の問題。
斎藤が怪我を負っていたところ。そして天霧が鬼の姿をしていた事だった。

あまりに普段とは違う様子が見て取れる。斎藤の余裕のなさそうなところなど、今初めて見たと言ってもいいぐらいだ。

丁寧な口調ながらも内容は斎藤を刺激するもの。そして、離れた千鶴にも伝わる空気の振動が、どれほどの威力であるか思い知らされる。

人としての強さでは、鬼には敵わない。

わかっているつもりで、本当にはわかっていなかった種族の優劣を、目の当たりにして改めて感じる。
それでも信じていたかった。斎藤を。延いては新選組を。

だからこそ、千鶴が今取るべき行動は

「斎藤さん!奉行所に薩摩藩士が…!」

途中で戦いを放棄する事、それは本来であれば斎藤本人も望むところではないだろう。屈辱以外の何物でもないはずだ。

しかし忘れてはいけない。私情を挟めるほど余裕はない、戦の真っ最中である事を。

「今は退いて下さい!皆で生きる為に!」

真っ直ぐな瞳で伝える千鶴。そして返ってくる返事もまた、真っ直ぐなもので。

「今俺がすべきは皆を守る事…か。すまなかった。」

揺らぐ事のない誠の信念をこれからも守り続ける為に。
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