第2章 想いを馳せて
夜も更け、夜襲に備え警備を固めるのは羅刹隊の仕事。
それは人出の足りない現状ではごく自然な判断だ。
しかし忘れる事は許されない。血に狂ってしまう性質を。
いや、むしろ自身の意思とは関係なくやってくる狂気を忘れる事など出来るはずがない。
そんな模範通り、いつの間にか藤堂の姿は羅刹と化し、普段の様子を忘れて暴れていた。
暗闇で視界が閉ざされたこの時間に、赤く染まった瞳を走らせる。獣の様なその姿。
怖くて震える事しか出来ない千鶴を、狂気に翻弄されながらも守る藤堂。
狂ってもなお、それだけは変わらない藤堂の強さを、はっきりと感じる事で、千鶴はなんとか平常心を保ち続ける。
余裕はないが、ほんのりと安心はあった。
それだけが、今の千鶴にとっても、藤堂にとっても精神安定剤となる。
千鶴を落ち着けるのは藤堂の強さで、藤堂の目を覚まさせるのは千鶴の強さ。
守る、守られる。それだけが全てでない事。
「平助君!もういいから!もう大丈夫だから!」
戦わずして助ける事も、助けられる事もある。
それが出来てこそ千鶴がここにいる意味。
その意味を噛み締めながら、訴える。