第2章 想いを馳せて
そうして屯所で身を隠していると、聞こえるはずのない銃声が響く。
間も無くして現れた鬼、不知火匡。
銃口をまっすぐ千鶴に向ければ、辺りは一瞬にして緊迫感に包まれた。
不知火の言葉一つ一つも、軽く言い流しているようで、何処か真面目な意思を感じる。
それが長州の、人間の意向に対するものではないと。
この襲撃が、風間らと共に来る時との理由ではない事も。
恐怖のみに制限された感情も、黒く塗り潰された思考も、瞬きすら許さないその張り詰めた空間で震えていた。
「嫌な予感がして戻ってみりゃ、単身で敵の本拠地を襲撃か。随分と見くびられてるもんだな。」
突如現れたその声に、どれ程の安心を覚えただろうか。
息を切らしながらも千鶴を背に庇い、不知火の銃目掛けて槍を振るう大きな背中。
「千鶴、無事か?」
頼もしい後ろ姿を目の前にした瞬間、なんとも言えない安心感が思考回路を照らしていく。
「いくらその女鬼が弱かろうが鬼は鬼だ。純血鬼ともなれば、銃弾を避ける事だって普通なんだよ。人間に頼らなくとも、十分に自己防衛できるんだ。お前らが執拗に守ってやる理由なんざどこにもねえって事、良い加減理解したらどうだ?」
それでも尚追い詰めてくる事実。
忘れたくても忘れられない、一生向き合わなくてはいけない。それは運命で。
「千鶴を守ると決めたのは他でもない俺たちだ。それは今までも、これからも同じ事だ。都合が悪くなったから、鬼だからって一度決めた事も付き通せねぇ様な奴なんざ、ここには居ねえんだよ!」
しかし信じていいんだと思えた。
生まれなど関係なかった。
千鶴は今確かにここで救われたのだ。
「千鶴、この様子じゃ他に侵入者が居ても可笑しくねぇ。主力を出払ってる現状じゃまともな戦い方も出来ねえ。俺はここでこいつを足止めする。伝令に動いてくれねえか?ここからだったら龍雲寺が近いはずだ。」
そして、頼られている部分も確かに存在した。
これが今、千鶴がここに居る確かな理由。
「…ご武運を。」
その呟きは銃声にかき消されてしまったが、確かに原田に届いている。