第3章 もう一つの月見日和
「成る程。確かに種類も豊富。」
「でしょ?ここ、近藤さんに教えてもらってお店で、今もたまに頼まれて買って来るんだ。」
「局長のお墨付きという事か。しかしこれだけ種類があるとどれを選ぶべきか悩むものだな。」
目当ての物を品定めしている最中、店員が一人近付いてきて言った。
「お、お兄さんお悩みのご様子。だったら栗饅頭はどうだい? 今日は十三夜だ。」
「今夜だったか。ならば栗饅頭を選ぶのが妥当だろう。これを頼む。」
「あいよ!毎度あり!」
十三夜とは、八月十五夜に対して『後の月』と呼ばれ、この時期食べ頃の豆や栗を供える事から、『豆名月』『栗名月』とも呼ばれる。
「そんな事、よく覚えてたね。」
「以前新八と左之が騒いでいたのを聞いたのだ。なんでも島原で酒を呑みに行きたかった様だが、遊里では十五夜と十三夜の両方を祝うものらしく、片方のみの場合『片月見』として縁起が悪いとされている様だ。」
「成る程ね。確かに僕達の先の予定なんてわからないし。そういう事なら夜はみんな居そうだね。やたら多い様な気もしたけど、そういう事か。
これだけあれば千鶴ちゃんも喜びそうだね。」
「…伊東参謀だが、雪村の事を少々怪しんでいる様だな。」
「そうだね。女の子だって看破されるのも、時間の問題かもしれないね。」
彼女の話題に移れば、少しばかりの不安が漏れる。
2人が初めて対面した時も、沖田の助太刀が無ければかなり危なかっただろう。
「その事も含めて、問題は山済みだね。あーあ。伊東さんって面倒くさいなぁ。土方さんとや…あれ。噂をすれば何とやらって事かな?」