第8章 乱藤四郎
舞台の前では審神者が家庭用ムービーカメラを構えて待ち構えていた。どこをどうしたというのか、一番良いポジションを確保している辺り流石である。と、優雅な音楽が流れ、小さな参加者達が舞台へと上がってきた。舞台の周りに大きな拍手が沸き起こった。
粛々と、時に笑いを交えつつイベントは進み、最後に一人ずつレッスンの成果を披露することになった。舞台の中央で小さな子から順にお辞儀をし、ポーズをとる。その度に温かな拍手に包まれ、和やかな空気が流れた。が、それも乱が現れたことにより一変する。乱の番がくると、それまで教授役のプリンセスの隣で静かに見守っていた王子が、乱の前までやって来て跪き、手を差し伸べた。そして乱の手を取るとその甲に一つキスを落とし、舞台中央までエスコートしたのである。本来、このイベントにおける王子の役割は教授役のプリンセスのエスコートであった。時にアシスタント的な役割を負うこともあるが、参加者へ積極的に絡むことはない。それが王子自ら進んでエスコートしたのである。ちょっとしたざわめきが起きた。しかし、それもすぐに歓声へと変わる。舞台中央で乱が完璧なまでのプリンセスぶりを発揮したからである。
ちなみに乱がポーズを取ると、あちこちから一斉にシャッター音が鳴り響いたのは余談である。もちろん審神者も左手にムービーカメラ、右手に携帯端末という器用な出で立ちで端末のカメラを連写していた。その日のSNSでは彼方此方でプリンセス乱の画像が拡散され、後々審神者は時の政府から厳重注意を受けることになる。