第9章 へし切長谷部
蒸気船に乗ってゆったりと進む。地上から見るのとは違う景色を眺めながら春風に吹かれているのも悪くない。実はこっそりと分刻みどころか秒刻みで効率的に園内を巡る計画を立てていた長谷部だが、審神者が当たり前のように次は何処へ行くと指示するので完璧な計画も未だ日の目を見ていない。しかし流石は元年パスホルダー、審神者の示す行き先はどれも長谷部には思いもよらないものであった。園内の美しさや季節の移ろいなど、長谷部が気づかないでいた事を審神者は一つ一つ拾い集めては見せてくれる。穏やかに過ぎる時を楽しむように、のんびりと歩を進める。こんな時間の過ごし方もあるのかと、長谷部は認識を改めた。緩やかに流れる時間を限りなく愛おしく思いながら。
「国重、ちょっと早いけどお昼にしない?」
時刻は11時半、昼食時と呼ぶには確かに少しばかり早い時刻である。
「俺は構わないが…いいのか?」
「良かったーっっ!!!出遅れてこんな時間しか予約取れなかったからどうしようかと思ってたんだけど。早速行こっか」
ホッとした表情で歩き出す審神者に一歩遅れて長谷部も歩き出した。目指すはハーバーから少し奥まった場所にあるイタリアンレストランである。