第8章 乱藤四郎
まだ少し肌寒い3月上旬、乱はそれまで着ていた白いケープを脱ぎ、白磁の城の前に誂えられた舞台の脇で係員の説明を聞いていた。これからプリンセス達が直々に立居振舞を教えてくれるというイベントに参加する為である。乱が参加するこの回は参加者に小さな子が多く、係員も少しばかり大変そうだ。親と引き離されて泣き出してしまった子をなだめている。乱はふと思いついてその子の前にしゃがみ込み、満面の笑みで話しかけた。
「こんにちは。あなたはどこの国のプリンセス?」
話しかけられた幼女が驚いて泣き止むのを見て乱は続ける。
「ボクはね、ずっと遠くのお城から遊びに来たの。ここで沢山のプリンセスに会えるのを楽しみにしていたんだよ?せっかくだからあなたとも仲良くなりたいなぁ」
「おねえちゃん…ほんとのおひめさま?」
呆気に取られている幼女が思わず呟くのを聞いて、乱は笑みを深めた。
「あなたもお姫様でしょう?ここにいるのはみーんな本物のお姫様、リトルプリンセスだって聞いてるけど?」
乱が他の参加者を紹介するかのように場所を空けると、幼女は周囲を見渡して再び小さく呟く。
「みんなおひめさま?……なっちゃんもおひめさま?」
「そうだよ、あなたもお姫様。なっちゃんていうんだね、ボクはみい、よろしくね?」
差し出された右手に幼女が首を傾げていると、乱はクスクス笑いながらその右手を取った。
「仲良しの握手、しよ?プリンセスなっちゃん」
堅く握られた手と手に二人の笑顔が弾けた。