第8章 乱藤四郎
10日後、いざ出発しようとした所で乱は審神者がやけに大きなトートバッグを持っているのに気がついた。いつも現世に行く時はショルダーバッグひとつのはずが、今日は違う。何か特別な土産でも買うのだろうか。不思議に思いはしたが、さして気にせず出かけることになった。
入場券を買い、開園を待つ間に審神者は何やら端末を弄っている。乱は地図を広げているものの、視線はある一点を見つめていた。園内中央にそびえ立つ白磁の城である。城の中には舞踏会の会場となった広間があり、そこにはガラスの靴も展示されている。本日の乱の目的はただ一つ、そのガラスの靴と写真を撮ることだ。そのためにわざわざ淡い水色のワンピースと白いヒールの靴を買ってもらい、髪も結って来た。準備万端、というよりそれしか頭に無い。
「ねぇね、お城の中にはいつ入れるの?」
「んー?いつでも行けるけど行くとしたら午後からかなぁ」
漸く端末をしまい、審神者は乱の広げている地図を覗き込む。入口を入ってすぐのアーケードを指差しながら、乱に告げた。
「まず始めに行きたいお店があるからそこからね」
「えー、ボクすぐにでもお城に行きたいのにー」
口を尖らせ不満をこぼす乱に、審神者は微笑んだ。
「みいなら絶対気にいるお店だから期待してていいよ」
「ホントにー?まぁ、ねぇねが言うなら行くけどさぁ…」
ボヤく乱の手を引いて、審神者は入口のゲートをくぐった。