第8章 乱藤四郎
「ねーねー主さーん!いつになったらボクを現世に連れてってくれるの⁈」
昼食の後執務室にいると、内番服の乱が抗議しに来た。鶴丸と出掛けてから二十日余り、次の順番を勝ち取ったはずの乱に未だ現世行きの声は掛からない。新しい顔ぶれも増えて賑やかになった本丸で、乱はしびれをきらして直談判に来たのだ。
「ゴメンゴメン、ちょっと事情があって待たせてるけどちゃんと連れてくから、後十日待ってて。待たせた分特別メニューを用意してるから、ね?」
書類整理をしていた審神者が慌ててとりなすと、乱は頬を膨らませながらも仕方ないという仕草で返す。
「もう!絶対だからね⁉︎特別メニューも忘れないでよ‼︎」
「乱は絶対気にいるから楽しみにしてて」
プンスカという擬音が聞こえてきそうな表情に少しだけ寂しげな影を潜めて、乱は執務室を後にした。
「…よろしかったのですか?」
「サプライズにするはずだったけど、仕方ないわね」
本日の近侍を務める長谷部が、お茶を持ってやって来た。一度休憩をということらしい。署名と捺印をした書類を片付け、長谷部から湯のみをもらう。玄米茶の香ばしい香りが辺りを包む。
「実際乱には我慢してもらってたし、このくらいはしなくちゃね」
一口お茶を飲み、審神者は続ける。
「それに今この本丸でアレが出来るのは乱だけだから」
一度やってみたかったのよねーと呑気に笑う審神者に、長谷部は苦笑を隠せなかった。