第7章 鶴丸国永
門限を1時間ほど過ぎて戻ってきた本丸は、異様な静けさに包まれていた。
「帰ったぞ…と。誰も出迎えに来ないとは驚きだな」
普段なら真っ先に怒り心頭の一期が出迎えて来そうなものなのに、誰一人として出迎えに来ない。
「……?大将に鶴丸の旦那?帰ってきたのか⁈」
とりあえず大広間に向かおうと歩き始めた二人の足音を聞いたのか、薬研が顔を見せた。
「ただいま、薬研。遅くなって悪かったわね。でも帰ってきたのかってどういうこと?」
異様な静けさといい薬研の言葉といい、わからないことが多すぎる。審神者は薬研を呼び寄せると、矢継ぎ早に質問を続けた。
「やけに静かだけどみんなどうしたの?帰ってきたのかって、まるで帰って来ないはずみたいに……って、鶴丸もしかして…‼︎」
「ああ、帰りは間に合いそうになかったからなぁ、一期に『今夜は主と二人で宿を取る』と連絡しておいたんだ」
悪びれもせずにそう言うと、鶴丸は携帯端末をヒラヒラと振った。
「おかげで大変だったんだぜ、大将。いち兄は卒倒しちまうし、乱と次郎の旦那は騒ぎたてるし、長谷部は泣き出すし、燭台切の旦那は赤飯の仕込みを始めるしでしっちゃかめっちゃかだった」
「ハハハ、そいつは見ものだったろうなぁ」
「あのねぇ、鶴丸……」
さも愉快そうに笑う鶴丸の鳩尾目がけて正拳突きを一発いれると、審神者は薬研を労った。
「ご苦労様だったわね、薬研。私から連絡しなかったせいで大変なことになっちゃって。とにかく光忠にはお赤飯の準備はやめてもらって…」
あれこれと指示を出し、審神者はまた歩き始めた。その方向を見て薬研がふと疑問を挟む。
「大将、そっちは」
「一期はまだ目を覚ましてないんでしょ?もうみんな休んでるみたいだし、お土産は明日にして、一期の様子を見てから寝るわ」
一期一振の部屋へと続く廊下を、審神者は歩いて行った。