第7章 鶴丸国永
特別ショーは二部構成で、一部はレビューショー、二部は観客から募集したメッセージを読み上げるメッセージコーナーである。レビューショーは流石に圧巻だった。パフォーマー達の一分の隙もないパフォーマンスに審神者も鶴丸も飲み込まれたかのように魅入っていた。鶴丸は映画の名曲達をジャズアレンジしたものが気に入ったようで、小さく口ずさんでいる。ショーのメインテーマ曲が終わり二部へ移行すると、審神者は鶴丸の肩をつついて小声で問う。
「まさかとは思うけど鶴丸、メッセージに応募なんてしてないよね?」
「さて、どうだろうなぁ」
仕掛けたイタズラが見つかる前のような不敵な笑顔を向けると、鶴丸は舞台を向いて小さく小さく呟く。
「俺が応募していたとしたら、君は何と応えてくれるだろうな」
「え?何か言った?」
「いや、なんでもないさ」
そのあまりにも細やかな独白が審神者の耳に届くことは無かった。
審神者は急いでいた。その後ろを鶴丸が不貞腐れた顔でついてきている。政府管轄の転移施設の閉門時間まで後15分。この調子で行けばなんとかギリギリで間に合うだろう。審神者は早足から小走りに変え、先を急いだ。元々ショーを見たら帰るはずだったのだが、劇場を出てすぐのところにあるフリーフォールの待ち時間が15分だと知った鶴丸が乗りたがり、つい一緒に乗ってしまったのである。当然施設を出る時間は遅くなり、皺寄せが一気に押し寄せてきたという訳だ。
「ほら、鶴丸早く!本丸に帰れなくなっちゃうでしょ?」
「そんなに急ぐことはないだろう。間に合わなければ宿を取って明日帰ればいい」
「却下。私まだ命は惜しいから」
もう10回目になるやりとりをまた繰り返し、審神者と鶴丸が転移施設の門をくぐったのは閉門五分前だった。