第7章 鶴丸国永
案内された席は窓際で、火山とハーバーを見渡せる眺めの良い席だった。ほう、と鶴丸は感嘆の声を上げると、メニューから手慣れた様子で食前酒とコース料理を頼む。悔しいが様になる鶴丸の様子に、一体いつの間に覚えたのかと、審神者は呆れを通り越し逆に感心した。
「ここ、時間が合えばテラスからショーが見えるのよね」
「らしいな。今日は取れなかったが、なに、次に来る時にはその時間帯を押さえておこう」
運ばれてきた食前酒で乾杯をしながら交わしている会話は仲の良いカップルのそれだが、実際は主従である。そんなつもりのかけらもない審神者は軽く聞き流していたが、鶴丸はそれを是としたと捉えたようだ。機嫌良くグラスを空にした。
「美味しかったー。で、次はどこへ行くの?」
再び施設内に戻ってきた二人は、のんびりと歩いていた。向かっている方角的にはなんとなく行先がわかってはいるものの、審神者は敢えて問うてみた。鶴丸はいたく上機嫌で、大袈裟に進行方向を指し示す。
「さあ、今日のめいんいべんとだ」
そこには煌びやかな電飾に彩られた劇場があった。
「まさかとは思ってたけど、ホントに用意してたとはね……」
この施設はバレンタインシーズンになると、特別なショーを開催する。そのショーは特別なチケットが無ければ観ることが出来ない。そのチケットは施設の入場券とセットになっており、一般の入場券とは入手方法が異なるのだが、鶴丸はどこでそれを知ったのかチケット付きの入場券を予め入手していた。
「驚いたか⁈せっかくだから観てみたくてな」
やたらとデート設定を全面に押し出してきたのはこのためだったらしい。サプライズが成功し上機嫌に輪を掛けた鶴丸を余所に、審神者はまた一つ溜息をついた。