第7章 鶴丸国永
「たまに飲むならわいんとやらもいいものだな」
「鶴丸、いつの間にテーブルマナーなんて覚えたの……」
どうやらこれもネットによる学習の成果らしい。ナイフとフォークを危なげなく使い、鶴丸は無事に食事を終えた。かえって審神者の方が覚束ない手つきだったと言ってもいいのではないかというくらい完璧なマナーを披露して。複雑そうな表情の審神者の隣で、鶴丸は端末の画面を見つめている。ちょいちょいと指先で画面を切り替えながら歩いていたが、ふとその歩みを止めた。
「みなみ、俺達はツイてるかもしれないな。ここから一番近いじぇっとこーすたーが今なら30分待ちだ。すぐに向かおう」
「え?わ!ちょっと待ってよ鶴丸‼︎」
鶴丸は審神者の手を引いて走り出した。
「なかなかに面白かったな!人気があるのも頷ける」
「まさかパスなしで乗れるとは思ってなかったわ! やっぱり絶叫系は押さえておくのが基本よね」
アトラクション出口からトンネルを通り抜け地下にあるエリアへ移動すると、今度は審神者の方が鶴丸の手を引いて歩き出した。目指すは海藻で出来たカップでぐるぐる回る、いわゆるコーヒーカップである。絶叫系と呼ぶにはいささか見た目が平和的だが、乗り方によっては充分に絶叫系と言えるスリルを味わうことができるのだ。
「鶴丸、ちょっとそっち詰めて。私隣に座るから」
本来は安全の為に対角線上に座るのが正しい乗り方なのだが、審神者は敢えて重心をズラす為に鶴丸の隣へ座る。カップの扉が閉まっているのを係員が確認し、軽快な音楽に合わせて回り始めた。
「あっはははーーっ!!まわーるまわーるまわーる!」
さて、何故この手の回転系アトラクションには対角線上に座るのが正しい乗り方なのかと言うと、重心を均等に配置する為である。重心を均等に配置すれば、速く回転し過ぎる危険性が低くなる。逆に一ヶ所に重心がくるように座れば遠心力が働き回転が速くなる。もちろん安全装置があるのである程度までしか速くはならないが、実際にはほんの少しの差でも体感速度はかなり変わってくる。審神者はこのことを利用して回転を速めスリルを割り増ししたのだった。
その後、鶴丸は立て続けに次々と回転系アトラクションに乗せられることになる。