第6章 小夜左文字
昼食を摂った店からほど近い化粧室の前で、小夜は審神者を待っていた。女性用は長い列が出来ており、審神者はなかなか戻ってくる気配がない。一人待ちぼうけの小夜がぼんやりと人通りを見ていると、ゆったりとしたコートを羽織った女性がたくさんの風船を手に目の前を通り過ぎていく。それが今剣が土産に持って帰ってきたものと同じだと気づくと、小夜は我知らず女性の後をついていった。
女性はアーケードの四つ角の片隅に陣取ると、道行く人に手を振りながら「いってらっしゃい」と声をかけている。このアーケードは利用客が入場して最初に足を踏み入れるエリアだからだろうか。そんなことを思いながら、小夜の目は風船に釘付けだった。どれくらいそうしていただろうか、一人風船をみあげたままの小夜に風船を売る女性が話しかけてきた。
「ぼく、風船好きなのかな?」
「うん、姉様が後で買ってくれるって言ってた」
「今日はお姉さんと来たんだね。お姉さんは今お買い物中?」
「姉様は手洗いに行ってる。……あ」
「うん?どうしたの?」
「姉様のそばから離れないって約束したのに……」
「あらら、風船が気になって一人で来ちゃったんだ」
「姉様を探さなきゃ」
「あ、待って!待ってぼく!」
くるりと身を翻して審神者を探そうと駆け出す小夜に、風船売りの女性が待ったをかける。小夜は振り向くと、なんだとばかりに睨みつけた。
「なに?僕は姉様を探さなきゃいけないから早くして」
「ぼくが探しに行くとすれ違っちゃうかもしれないから、お姉さんに来てもらおう?お姉さんは係の人が見つけてくれるから、ちょっとこっちで待ってようか」
小夜を引き止めるのに成功すると、風船売りの女性はどこかへ連絡を入れているようだ。しばしの後、黒いコートを着た「係の人」と思しき男女が現れた。黒いコートの女性はしゃがみこんで小夜と目線を合わせながらいくつか質問をする。
「ぼく今日はお姉さんと来たんだってね。自分のお名前とお姉さんのお名前言えるかな?」
「僕は小夜、姉様はみなみ」
「そっか、小夜くんっていうんだ。お姉さんは今日どんなお洋服着てるかな?」
「上は草色で下は生成り、靴は茶色で肩から提げる鞄は薄い桃色。蝶の飾りのついた簪で髪を結ってる」
「ふむふむなるほど。お姉さんとはどこではぐれたのかな?」
「向こうの手洗いの前」