第6章 小夜左文字
ガラス窓の向こうで次々と焼き菓子が焼き上がるのを、小夜はじっと見ていた。型に生地をいれ、蓋を閉め、しばらくするとひっくり返す。そのまま少し待つとまたひっくり返し、蓋を開けると黒ネズミの顔の形をした焼き菓子が焼き上がる。いくつも並んだ型でこれを繰り返し次々と焼き上がるそれは、時々審神者が作ってくれるホットケーキによく似ていた。
「小夜ー?イチゴとチョコどっちがいいー?」
厨房の中が見えるガラス窓に張り付いたままの小夜に、審神者が注文口から声をかける。少し悩んで、小夜は声を上げた。
「……チョコ」
「じゃあメープルとチョコ一つずつ、それとオレンジジュースと紅茶も一つずつ」
「かしこまりました」
受け渡し口へ移動するとすぐにドリンクが用意され、さほど待たずして二人分のワッフルが出てきた。いまだ釘付けの小夜にもう一度声をかける。
「小夜、もう出来たからいらっしゃい。焼き立ての美味しいうちに食べましょう?」
「はい、姉様」
後ろ髪を引かれている小夜を連れて、審神者はテラス席に座る。チョコソースのかかったワッフルとオレンジジュースを小夜の前に置いて、紅茶のティーバッグを紙コップの中のお湯に浸けた。
「いただきます」
「いただきます」
きちんと挨拶をしてから、おもむろにフォークを入れる。食べやすい大きさに切って口の中へ放り込むと、外はカリッと中はふわっとした食感とともにソースの甘さと生地の香ばしさが広がる。ホットケーキとはまた少し違うと、小夜は思った。
「姉様の作ってくれたほっとけーきと少し違う」
「これはワッフルっていうの。材料はホットケーキとほぼ同じだけど作り方が違うのよ。口に合わなかった?」
「ううん、これも美味しい。でも姉様の作ってくれたほっとけーきの方がもっと美味しかった」
「あら、嬉しい。じゃあ明日のおやつはホットケーキにしようか」
「うん、楽しみにしてる」
嬉しそうに笑う小夜の背後に、本日何度目かの誉桜が舞った。