第6章 小夜左文字
小夜の様子がおかしい、と審神者が兄達からの報告を受けたのは現世へ行く3日前だった。何かをずっと考えこんでいるようだと宗三は言い、時折じっと自分のことをみつめているようだと江雪は言う。審神者としても小夜から何か言いたげな目でみつめられることが何度かあった為、気になっていた。だがいかんせん小夜が何を思い悩んでいるのか皆目見当がつかない。そこで審神者は現世に行った際に上手く聞き出す計画を立てた。兄達にも情報共有を約束し、協力を求めたので解決までを一手に任されることになった。
現世行きの前日、小夜に呼び出された審神者が縁側へ向かうと、何故か江雪がいた。江雪も小夜に呼び出されたと言う。二人で首をかしげていると、三人分のお茶を淹れて小夜がやって来た。座って、という小夜の言葉に並んで座る。今日は風も無く過ごしやすい。お茶をもらい一口含む。熱いお茶がありがたい。しばらく日向ぼっこをしていると、小夜がぽつりと呟いた。
「主、お願いがあるんだ。明日は僕の代わりに江雪兄様を現世へ連れて行って」
「……え、なんで?」
突然の申し出に審神者も江雪も固まった。何をいきなり言い出すのか。審神者は小夜が現世行きをとても楽しみにしていたのを知っている。今剣が土産に持って帰ってきた風船を見ながらおずおずと自分の時も買ってくれるのかを訊ねてくるので勿論だと答えたことを思い出す。それから指折り数えて待っているのを宗三と一緒に微笑ましく見ていたことも。
「僕は復讐しかできないけど、あの施設が素晴らしいところだっていうのはわかる。みんなが幸せになれる場所なら江雪兄様の言う和睦もそこにあるんじゃないかと思って」
「だけど小夜は現世行きすごく楽しみにしてたじゃない」
「うん……でも江雪兄様の方が相応しい場所だから」
「ありがとうございます、お小夜。貴方の気持ちはとても嬉しいです。ですが私はまだ修行の身。有事の際のことを考えるとまだ現世へ行くのは早いでしょう。せめて特がつくまでは研鑽を重ねなければなりません」
「江雪の言う通りだね。特がつくまでは現世には連れて行けないかな」
「……僕が行ってもいいの……?」
「当たり前でしょ?小夜と一緒に行きたいんだよ」
誉桜がひらひらと散り、消えていった。