第6章 小夜左文字
少し前まで、この本丸は所謂レア難民と呼ばれる本丸だった。レア刀と呼ばれる顕現率の低い刀にあまり縁がなく、いるのは短刀の厚藤四郎と太刀の一期一振、鶴丸国永、大太刀の蛍丸くらいであった。だが、先日難民によるブラック本丸化対策として希望者に三日月宗近と小狐丸が政府より配布されたのがきっかけになったのか、それともこの本丸にも運が向いてきたのか、続けてレア刀が顕現されることになった。三日月と小狐丸を受け取ったのと前後して、岩融、蜻蛉切、平野藤四郎が新たに鍛刀され、検非違使からのドロップで長曽祢虎徹と浦島虎徹、特殊任務で博多藤四郎、後藤藤四郎、信濃藤四郎、物吉貞宗が仲間入りしたのである。兄弟刀や縁の深い刀剣が顕現され、皆喜んだ。特に4人もの弟が顕現された一期一振の喜びようたるや盆と正月が一度に来たかのようだった。それとは対照的に、兄弟の顕現を静かに喜んだ者もいる。小夜左文字と宗三左文字である。このレア刀フィーバーとも言える波の一番最後に来たのは彼らが兄、江雪左文字だった。彼の顕現を弟達は静かに、だがとても深く喜んだ。人の身体に慣れるまではつきっきりで世話をし、内番も一緒にこなした。非番の日はよく三人で日向ぼっこをしている姿が目撃された。彼らは静かにじっくりと兄弟の絆を深めていったのである。
小夜は悩んでいた。次は己が現世に行く番なのだが、できることならやって来たばかりの長兄にこそ行って欲しい、と。現世の施設がどれほど素晴らしいところなのかは先に行った者達から常にきいている。争いを嫌う長兄にこそ、その場はふさわしいのではないか。待ち侘びた兄が顕現されてから、ずっと考えていたことである。だが刀剣男士が現世に行けるのは審神者の護衛としてだ。ようやく練度が二桁になったばかりの兄ではあるが、護衛として不足があるとは思えない。有ってはならないがもしもの時でも二人共に無事に帰って来てくれるだろう。ならば審神者と兄に順番を代わって欲しい、と言えば済むことなのに、何故か言い出せない。それがどうしてなのかがわからず、深く思い悩んでいた。