第5章 燭台切光忠
夜が更けるにつれ、深々と寒さが降り積もる。外に出ると息が白い。夜のメインショーが終わり、人々の流れも落ち着いてきた頃、光忠と審神者は橋の上にいた。クリスマスシーズンには、メインショーの他に夜のクリスマス限定パレードが実施される。このパレードは近くで見ても幻想的なのだが、少し離れた場所から俯瞰で見るととても幻想的なのだそうだ。ネットの掲示板で前情報を得た審神者は、いくつかあるオススメポイントからこの場所を選んだ。本当は一番のオススメポイントに行きたかったのだが、そこはもう他の観客が陣取っているのが見えたのでここにしたのだ。途中の売店で二人分のホットワインと骨付きソーセージを買って、チビチビと暖をとりながらパレードの開始を待つ。やがて開始5分前のアナウンスが流れ、街燈の灯りが落とされた。
小さな小さな灯りが一つ灯された。荘厳な賛美歌が流れ、だんだんと灯りは大きくなる。灯りは大きくなるにつれ、その全貌を明らかにしていく。大きな蝋燭の形をしたLEDライトを乗せた小船がゆっくりと水面を走る。やがて中央まで進むと音楽が止まった。それに合わせて小船も止まる。そしてクリスマスキャロルが流れると、一面に蝋燭の灯りが灯された。いつの間にかパレード会場であるプール一杯に、中央に座している小船と同じものが音もなく現れていた。
「綺麗……」
クリスマスキャロルに合わせてゆっくりと小船が進む。暖かな灯りが静かにその陣形を変えていく。中央の小船もその位置を変えると、審神者達のいる橋の後ろの運河から、キャラクター達の乗るフロートが現れた。キャラクター達は各々がその手に蝋燭の灯りをもち、口々にクリスマスキャロルを歌っている。フロートは中央で停泊し、一番高い場所にいた黒ネズミがその手の蝋燭が捧げ持つ。
「さあ、クリスマスをお祝いしよう!」
黒ネズミの声と共に、フロートの横には大きなクリスマスツリーが現れた。クリスマスキャロルを歌いながら、キャラクター達が順にツリーへ向けて蝋燭の灯りを捧げ持つと、ツリーにも灯りが灯されていった。最後にもう一度黒ネズミがツリーへ向けて蝋燭の灯りを捧げ持つと、頂点にある星が光りだした。メリークリスマス!という掛け声と共に、ツリー以外の全ての灯りが落ちてパレードは終了した。